あなたになら言える秘密のこと
監督:イザベル・コイシェ
キャスト:
サラ・ポーリー、ティム・ロビンス、スヴァレ・アンケル・オウズダル、ハビエル・カマラ
ダニー・カニンガム、ディーン・レノックス・ケリー、ダニエル・メイズ、エマニュエエル・イードーウ
エディ・マーサン、スティーヴン・マッキントッシュ、ジュリー・クリスティ、レオノール・ワトリング
製作:2005年、スペイン
工場で梱包作業をしているハンナ。無遅刻無欠勤で社員の手本ともいえる彼女だが協調性がない。ランチはいつも1人でライスとポテト、それとリンゴだけ・・・。
ある日、上司に呼ばれ1ヵ月の休暇を命じられた。勤務態度に何の落ち度もないハンナにとってクビになることはない。しかし、ハンナは楽しむことを知らない。長期休暇を与えられても上司からの命令と受け取り、当てのない旅へ出かける。
海が見える街に来たハンナ。沖合いには油田掘削所が見える。レストランで食事をするハンナ。そこで、神妙な話し方で電話している男に出会う。どうやら緊急の用事で看護師を探しているようだ。以前、看護師をしていたハンナは、その男に声をかけ、看護師として雇われる。
看護する男の名はジョゼフ。腕と脚を骨折、さらに重度の火傷を負い、角膜にまで及んでいるため2週間程度何も見えない。しかも、彼は油田掘削所の作業員。作業中での火災事故で負傷し、現在は陸にも運べず、油田掘削所の診療室で安静にしている。
油田掘削所でハンナは2週間の看護生活を過ごすことになった。
Comment:
男と女のラブストーリー、秘密が明かされるまでのミステリー、そして社会派ドラマでもある作品。
オープニングでのハンナは無口で無表情。笑顔を忘れてしまっているような印象でした。彼女は自分を飾ろうとしません。服装も地味、部屋の中も必要最低限のものしか置きません。しかし、ナレーションの声は明るく可愛い女の子の声です。その謎は明かさぬまま淡々と話は進みます。
退屈しない時間を過ごすためだった油田掘削所での生活は、彼女に大きな変化を与えます。
ハンナと同じ1人が好きな責任者のディミトリ、ハンナに好意を抱くコックのサイモン、ハンナの心を動かす海洋学者のマーティン、他にも機関室のスコットとリアム、掃除係のアブドゥル、そして、ジョゼフ。
油田掘削所の生活は孤独との戦いです。でも、ハンナも今まで孤独に暮らしてきた1人。陸にはいなかった同じ気持ちを共有できる人たちに油田掘削所ではじめて出会えたのではないでしょうか。
その中でハンナとジョゼフは語り合ううちに、お互いに秘密があることを察します。
ジョゼフの秘密は「ポルトガル文」にありました。「ポルトガル文」とは尼僧が愛する男性へ送った恋文をその男性が書簡体小説にした本のタイトルです。油田掘削所で過ごすジョゼフには、この本が「ある女性」と深い愛で結ばれている証だったのかもしれませんね。でも、この本をその女性から返されたということは愛が終わったということなのでしょうか。
ハンナの秘密は、あまりに衝撃的なものでした。ハンナがなぜ無口で人を寄せ付けないでいたのかが明らかにされますが、ハンナの言葉だけで語られるその秘密は痛々しく決して許すことのできないものでした。
「民族浄化」は現在でも遺恨を残しているそうです。
情けないことに、たった10年前にこんな「狂気」があったことすら、私は知りませんでした。人は群れを成すと「狂気」をとめることはできないのでしょうか。ハンナの真の姿を見て「民族浄化」がいかに愚かなものであったのかを知って欲しいです。
ハンナ役はサラ・ポーリー。彼女のほとんどのシーンは無表情でしたが、時より魅せる笑顔が印象的でした。
ジョゼフ役には演技派ティム・ロビンス。ハンナが秘密を明かしたときの彼の表情が何とも言えず悲しげでした。
他にはコックのサイモン役であるハビエル・カマラが印象に残りました。彼の大らかな性格とコックとしての腕前がハンナに「おいしい」という感覚を蘇えらせてくれました。彼は「トーク・トゥ・ハー」の看護師役でも独特の雰囲気を醸し出していましたね。
あまりに重いテーマの作品でしたが、油田掘削所の男たちとアヒルのリサが和ませてくれました。
ナレーションの女の子は、もう1人のハンナ。もう姿を見せないということは主人格のハンナと同化したのでしょうか。ハンナに明るく可愛い女の子のような笑顔が戻ることを祈ります。
★★★★★★★★☆☆